サイバーセキュリティ&プライバシー

Google、IPアドレスを利用した広告の個人化を英国・EU・スイスで開始へ

著者 Mag-Info Tech editorial · 2026-06-18

Google、IPアドレスを利用した広告の個人化を英国・EU・スイスで開始へ

2026年8月3日をもって、Googleは英国、欧州経済領域(EEA)、スイス在住のユーザーに対し、IPアドレスを活用した広告測定と個人化を開始する。これまでIPアドレスはトラフィックのルーティングや広告配信のために受け取っていたが、新たな用途として「デバイスの識別」に用いられることになる。この変更は、EU一般データ保護規則(GDPR)においてIPアドレスが個人データと位置付けられる地域において、特に重要な意味を持つ。ユーザーの同意が必要な「個人化」目的にIPアドレスが利用されることで、プライバシー保護の枠組みが一層厳格化される見通しだ。

広告エコシステムにおけるIPアドレスの位置付けと変化

IPアドレスはインターネット上でデバイスを一意に識別するための基本的な情報であり、ウェブサイトや広告ネットワークがトラフィックのルーティングやコンテンツ配信を行う際に必須のデータだ。従来、Googleを含む多くの企業は、IPアドレスを主に技術的な目的で利用してきた。例えば、ユーザーの地理的位置情報の推定、不正行為やスパムの検出、広告の配信最適化などが挙げられる。しかし、IPアドレスが個人データとみなされる英国やEU、スイスにおいては、その取り扱いが大きく変わる。

Googleはこれまで、IPアドレスを「広告測定と個人化」に用いることを控えてきた。2019年には、当時のChromeエンジニアリングディレクターであったJustin Schuh氏が、IPアドレスを用いたフィンガープリンティング(ユーザーの追跡)はユーザーの選択肢を奪う行為であり、「間違っている」と発言していた。しかし、2024年12月に方針を転換し、IPアドレスを活用した個人化を認める方向に舵を切った。この背景には、広告エコシステム全体でのIPアドレスの利用が既に一般化していること、そしてプライバシー保護技術(PET)の進展によるところが大きい。

IAB EuropeのTCFフレームワークとIPアドレスの位置付け

Googleは、IAB Europeが運営する「Transparency and Consent Framework(TCF)」のもとで、IPアドレスを「Feature 3: Identify devices based on information transmitted automatically」に分類することを表明している。TCFは、欧州におけるユーザーの同意管理を標準化するためのフレームワークであり、広告主やパブリッシャーがユーザーの同意を適切に取得し、管理するための仕組みを提供している。

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Feature 3は、デバイスから自動的に送信される情報(IPアドレスを含む)を用いてデバイスを識別する機能を指す。この機能自体が同意を求めるステップになるわけではなく、むしろ「個人化」などの目的に紐付けられる同意が必要となる。このため、ユーザーはIPアドレスを利用した個人化に対して、明示的な同意を与えるかどうかを選択することになる。この仕組みにより、広告エコシステム全体での透明性とユーザーのコントロールが向上することが期待される。

プライバシー保護技術(PET)の活用とユーザーへの影響

Googleは、IPアドレスを活用した個人化に際して、プライバシー保護技術(PET)を積極的に活用すると述べている。具体的には、オンデバイス処理、Trusted Execution Environment(TEE)、Secure Multi-Party Computation(SMPC)などの技術を用いることで、ユーザーの個人データがサーバー上で処理されるリスクを低減する方針だ。これらの技術は、データを分散処理することで、単一のエンティティがユーザーの個人データを完全に把握することを防ぐ仕組みを提供する。

一方で、ユーザーにとっては、広告の個人化がどのように行われるのか、またその選択肢がどのように提供されるのかが重要なポイントとなる。Googleは、自社のプロパティ(検索、YouTube、Google広告ネットワークなど)において、ユーザーがIPアドレスを利用した個人化に関する選択を行えるようにするとしている。具体的には、ユーザーが広告の個人化を拒否するオプトアウト機能や、詳細な設定をカスタマイズする機能が提供される見込みだ。これにより、ユーザーは自身のプライバシーに関するコントロールを強化することができる。

規制環境の変化と業界への影響

英国の情報コミッショナー事務所(ICO)は、近年、広告業界における同意ルールの見直しを進めている。ICOは、ユーザーの同意を適切に取得せずに行われる個人化広告について、GDPRや英国版GDPR(UK GDPR)に違反する可能性があると指摘してきた。Googleの今回の対応は、こうした規制強化の流れに対応するものであり、業界全体に大きな影響を与えることが予想される。

また、EUでは、デジタルサービス法(DSA)やデジタル市場法(DMA)などの新たな規制が施行されており、広告業界における透明性とユーザーの権利保護が一層強化されている。これらの規制は、IPアドレスをはじめとする個人データの取り扱いに対しても厳格な基準を設けており、企業は今後ますますプライバシー保護に対する取り組みを強化する必要に迫られる。

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広告主とパブリッシャーにとっての実務的な影響

広告主やパブリッシャーにとって、GoogleのIPアドレス活用は、広告キャンペーンの効果測定やターゲティング精度に直接的な影響を与える。従来、クッキーの制限や規制強化により、広告の個人化が困難になりつつあったが、IPアドレスを活用することで、ある程度の代替手段が提供されることになる。しかし、その一方で、ユーザーの同意が必須となるため、同意率の低下が広告効果に悪影響を及ぼす可能性もある。

また、TCFフレームワークへの対応が必須となるため、広告主やパブリッシャーは、同意管理プラットフォーム(CMP)の見直しや、ユーザーへの同意リクエストの最適化を行う必要がある。これにより、ユーザー体験の向上とともに、規制遵守のリスクを低減することが求められる。

技術的な課題と今後の展望

IPアドレスを活用した個人化の実現には、技術的な課題も伴う。例えば、IPアドレスは動的な要素が強く、ユーザーのネットワーク環境によって変化するため、安定したデバイス識別に課題がある。また、プライバシー保護技術を活用することで、個人化の精度が低下する可能性もある。Googleは、これらの課題に対応するために、オンデバイス処理やTEEなどの技術を活用し、ユーザーのプライバシーを保護しつつ、広告の効果を最大化する方針だ。

今後、GoogleはIPアドレスを活用した個人化機能を段階的に導入する予定であり、一部の機能は2025年後半から2026年初頭にかけて提供される見込みだ。この期間中に、ユーザーや業界関係者は、新たな仕組みへの適応と、プライバシー保護と広告効果のバランスを模索することになる。特に、ユーザーの同意をどのように取得し、管理するかが、成功の鍵を握るだろう。

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実務的な対応策とユーザーへのアドバイス

ユーザーにとっては、IPアドレスを活用した広告個人化に関する選択肢が提供されることになるため、自身のプライバシー設定を確認し、適切な選択を行うことが重要だ。Googleのプロパティを利用する際には、広告の個人化に関する設定画面を確認し、同意を与えるかどうかを決定することができる。また、ブラウザのプライバシー設定や拡張機能を活用することで、IPアドレスの追跡を制限することも可能だ。

広告主やパブリッシャーは、TCFフレームワークへの対応を進めるとともに、ユーザーの同意を適切に管理するためのシステムを整備する必要がある。これにより、規制遵守を確保しつつ、広告キャンペーンの効果を最大化することができる。また、プライバシー保護技術を活用することで、ユーザーの信頼を獲得し、長期的なビジネスの持続可能性を高めることが重要だ。

結論:プライバシーと広告のバランスを模索する転換点

GoogleによるIPアドレスを活用した広告個人化の開始は、プライバシー保護と広告エコシステムのバランスを模索する転換点となる。規制強化が進む中で、企業はユーザーのプライバシーを尊重しつつ、効果的な広告配信を実現するための新たな手法を模索する必要がある。ユーザーにとっては、自身のデータがどのように利用されるのかを理解し、適切な選択を行うことが重要だ。

今後、この動きは業界全体に波及し、他の広告プラットフォームや企業も同様の対応を迫られる可能性が高い。プライバシー保護と広告効果の両立を図るためには、技術革新と規制対応の両面からの取り組みが不可欠であり、今後の動向に注目が集まる。

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